フランシーヌ

バレンティーナさんの副官に選ばれてから3ヶ月。

本当にあっと言う間だった。

バレンティーナさんが船旅に不慣れなあたしの為に遠出を控えて、比較的近場の海域を航海してくれたのだけど
それだけでもあたしの世界はこれまでに比べて何十倍、何百倍も広がっていった。

イスタンブールのトルコ絨毯、ラグーザのウォード、ヴィスビーの亜麻、リガの羽毛、オランダ更紗

そして母国フランスでも滅多に見る事の出来ない同盟港カレーのゴブラン織り

名産と呼ばれる染料や織物、繊維だけでもあたしはこれだけの物を見て手に取る事が出来た。

お洋服にされた物は見た事があっても実際に素材として触るのは初めてだった。

バレンティーナさんは何がどの服の材料になっているのかも幾つかあたしに教えてくれた。

羽毛がアヒルさんやにわとりさんから取れるのにはビックリしたけど…。

高いからもっと特別で希少な鳥さんから取れるものだと思ってたのに…ちょっとショックだった…。

今は秋風さんやニーナさんの乗る船”逢瀬”と別れてあたしはバレンティーナさんと二人で旅をしている。

ゆらりゆらりと波に船が揺すられてそれに釣られてあたしの体も揺さぶられる。

フラ「ふっ!ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜、はぁ」

大きく伸びをしてもそもそとベッドから降りてあたしは着替えて甲板に向かう。

真っ青な海が陽光を浴びてキラキラと瞬いていた。

夜空と海を引っくり返した様なその光景の綺麗さと言ったらきっと船乗りさんにならないと解らないんじゃないかな?

初めて船に乗った時は緊張と揺れの所為でちっとも眠れなかったのを思い出す。

フラ「あたしも少しは船乗りさんらしくなったのかな♪よぉーし!」

一つ自分を励ましてあたしは日課に取り掛かった。

毎朝甲板を磨いてピカピカにしておく。

それが船上にいるあたしの副官としての日課だった。

水夫「おはようございます、フランシーヌさん」

水夫さんが起きて挨拶をしてくれる。

フラ「おはようございまーす♪」

水夫「いつも早いですねぇ、眠くないんですかい?」

大きな欠伸をしながら水夫さんが尋ねてくる。

あたしが副官に抜擢された時、バレンティーナさんだけじゃなく水夫さん全員があたしの事を歓迎してくれた。

船の上の仕事、心得、海上での作法。

バレンティーナさんが忙しい時には水夫さん達が全部あたしに教えてくれた。

フラ「眠いですよー。でも、もうここはあたしのおうちだから…。いつも綺麗にしておきたいし」

あたしの言葉に心底関心した様に水夫さんが頷く。

水夫「なるほど、すごいっすね…尊敬しますよ」

そんな風に言われるとなんだか照れくさい。

あたしは照れ隠しに手を振って答えた。

フラ「そ、そんなことないですよ!ほら、ピカピカの甲板でお日様の光を浴びてお昼寝したら気持ちいいじゃないですか、ね?」

水夫「なるほど、フランシーヌさんらしいや。でも、それでもやっぱすごいと思いやす。見習わないと…」

??「そうね、副官が朝一番に起きて仕事してるんだものね。見習ってほしいわね」

ふわりと水夫さんの肩に腕が乗せられる。

水夫「せ、船長…」

水夫さんの肩に腕を乗せながら話しかけたのはこの船”ブルーメンガルテン”の船長、あたしの雇い主バレンティーナさんだった。

バレ「フランシーヌも掃除はこいつらにやらせなさいな。使い捨てなんだから」

水夫「うわ…」

フラ「使い捨て…」

水夫「そりゃあんまりっすよ、船長…」

そんな風に言いながらも水夫さんの顔は笑っている。

バレ「さっさと掃除なさい。今夜はフランシーヌの歓迎会でしょ?塵一つ許されないわよ?」

水夫「そっすね、ガンガン働かせていただきやす!」

水夫さんの言葉にバレンティーナさんはニコリと微笑んであたしに手招きした。

この船に乗って初めて思ったのは皆仲がいい事だった。

水夫さん達は船長を、船長は水夫さん達を信頼しあっているんだろう。

暖かい船であたしは本当に良かったと思う。

バレンティーナさんに付いて行くと大きな鏡のある船室に連れて行かれた。

バレ「貴方、これ知ってる?」

バレンティーナさんが手に持っていた物を受け取る。

それは木の先端を削って箒を小さくした様な物だった。

フラ「箒じゃ…無いですよね?」

クスッと小さく微笑んでバレンティーナさんは小さな袋から少量の粉を広げた。

バレ「これは歯を磨く物よ。で、こっちの粉は薬。これをこう付けて歯を磨くの」

そう言ってバレンティーナさんはワシワシと歯を磨きだした。

フラ「初めて見た…」

バレ「あふぁりふぃないふぉにょね、こにょふぁえふぃつけちゃからかっておいかお」
   (あまり見ないものね、この前見つけたら買っておいたの)」

フラ「ふえ?」

バレンティーナさんは口を濯いでから話し始めた。

バレ「貴方にあげるわ。女の子なんだからちゃんと身嗜みも気をつけて。服は貴方を着飾る物でしかない」

フラ「うん…」

バレ「着る人が居て初めて服の良さが解るの。でも着る人がだらしなくしていたら…ってそう言う事よ」

フラ「な、なるほど!」

初めての歯磨きは中々難しい物があったけどどうにかこなす事が出来た。

薬のおかげで口の中がスッキリしてる。

外に出るとバレンティーナさんは甲板の一番先に立っていた。

あたしが少し近づくとクルリと踵を返した。

癖なのかバレンティーナさんは考え事をする時はいつも左手で右手の肘を抱えて右手の人差し指を唇に当てていた。

バレ「今夜も天気は良さそうね、海上でパーティーにしましょうか」

フラ「なんかすごそうですねー♪」

あたしは少し離れた所から返事をした。

そんなあたしをバレンティーナさんは小首を傾げて見つめていた。

バレ「フランシーヌ、こっちにいらっしゃい。風が気持ちいいわよ」

え…

そんな所に、あたしは行けない…

そんな揺れの激しい所には…

フラ「あの、えーと…あたしはここで…」

バレ「…フランシーヌ」

訝しげな視線があたしを見据える。

ばれた…かな…。

コツコツとバレンティーナさんのブーツが甲板を鳴らす。

バレ「貴方…もしかして、泳げないの…?」

あたしの傍まで来て囁く様にバレンティーナさんは言った。

あたしはコクリとゆっくり頷いた。

バレ「はぁ…気付かなかったわ…」

大きく溜息を吐いてバレンティーナさんはそう呟いた。

バレ「どうりで掃除の時以外は甲板の真ん中に居る訳ね…どうして言わなかったの」

フラ「そ、れは…その…」

バレ「そんな理由で私がクビにするとでも思ったの?」

あたしは答える事が出来なかった。

バレンティーナさんの言う事をそっくりそのまま思っていたから…。

バレ「…はぁ、私は貴方が言ってくれなかった事の方が余程ショックだわ…」

フラ「ごめんなさい…」

バレ「まったく…」

バレンティーナさんはあたしの頭をくしゃりと一撫でして微笑んだ。

バレ「まぁいいわ、今日は折角の歓迎会だもの。そんな暗い顔で参加されたら困るものね。さ、夜になるまでゆっくりしましょうか♪」

あたしは罪悪感と嬉しさとで複雑な心境のままその日の夜を待つ事になった。


その日の夜

バレンティーナさんの言った通り昼間の海面を逆さにした様な星空が広がっていた。

船通りの少ない海上で停泊している”ブルーメンガルテン”の縁に肘を掛けてあたしは夜空を見上げていた。

夜風が昼間とは違った冷ややかな潮の香りを乗せてあたしの髪を揺らす。

久しぶりに秋風さんやニーナさん、それにシャルロッテと会えると思うと心が躍る。

あたしは待ちきれずに甲板に出て”逢瀬”の到着を待っていたのだった。

「心配しなくても必ず来るわよ」

とバレンティーナさんには言われていたけど居ても立っても居られなかった。

皆が揃うのはあたしが副官に選ばれた時以来だったからだった。

水夫「船長!フランシーヌさん!7時の方向に”逢瀬”が見えやしたぜ」

水夫さんの言った方を見るとこっちの船と同じ位の大きさの船がゆっくりと波に揺られていた。

徐々に近いづいてくる”逢瀬”を見ていると船の縁に秋風さんとニーナさんがそれぞれ一本のロープを手にして立っていた。

秋風さんは水夫さん達に何かを話している様でこちらに気付いたニーナさんが手を振ってくれた。

秋風さんも話し終えるとこちらに気付いて手を振っていた。

”逢瀬”が丁度隣で停泊すると秋風さんとニーナさんがロープを使ってこちらの船に乗り移って来る。

秋風「いよっとー」

ニーナ「っと」

二人とも見事に着地して手にしていたロープを船に投げ返す。

秋風「ひさしぶりー、フランシーヌ」

ニーナ「お久しぶりです、フランシーヌさん」

フラ「お二人ともお久しぶりです、お元気でしたか?」

秋風「あははっ、見た通りだよ。ほいよっと」

そう言って秋風さんが不意に何かをあたしに放り投げた。

フラ「おわっとっと、これは?」

慌てて受け止めたそれは、長方形の少し大きめな木箱だった。

秋風「お土産だよ」

フラ「ありがとうございます♪開けてもいいですか?」

秋風「開けてやっとくれ」

木箱を開けると中には一巻の織物が入っていた。

フラ「ふわっ!?これ、見た事無いです!何て言うんですか?」

秋風「あー…何て言ったっけ?フランシーヌみたいな名前だったんだけど…」

ニーナ「フランネルです」

考えている秋風さんの隣でニーナさんがキッパリと答える。

秋風「そうそう、そんな奴だったね」

フラ「フランネル…聞いた事も無いです」

ニーナ「北欧の方で扱っている港もあるそうですが関税が厳しくてあまり見掛けないですね。
     カリブでたまたま売っていたので譲ってもらいました」

フラ「そんな希少な物、貰っちゃって良いんですか?」

秋風「それはニーナに聞いた方がいいなぁ」

ニーナ「んなっ!?」

秋風さんの言葉に反応してニーナさんが顔を真っ赤に染めていた。

秋風「それ選んだのも買ったのもニーナだからさ」

フラ「そうなんですかっ!?」

ニーナ「船長!それは言わなくても!」

秋風「なんで?間違ってないでしょ?」

ニーナさんの必死の抗議は秋風さんに軽くあしらわれる。

ニーナ「そ、それはそうですが…」

フラ「ニーナさん、ありがとう!」

ニーナ「い、いえ…船長から頂いたお給金で買ったものですから…それは」

秋風「なーにを言ってるんだか、シャルロッテ抱いてるからわっちが渡しただけでしょうに」

ニーナ「し、しかし…」

秋風「照れなさんなって、生まれて初めてのプレゼント喜んでもらえたんじゃない?」

ニーナ「あ、あぅ…そ、その…。よ、喜んで貰え…ました…か?フランシーヌさん…」

耳まで赤く染めて上目遣いにニーナさんはそう尋ねた。

フラ「うん♪ニーナさんありがとうね♪こんなに素敵な織物貰えてあたし嬉しいよ♪」

ニーナ「そ、そうですか…それなら良かったです。シャルロッテを紹介してくれたお礼だと思って下さい」

フラ「うん、ありがと♪シャルロッテも良かったね、ニーナさんに可愛がって貰って」

あたしはニーナさんの腕に抱かれているシャルロッテの頭を軽く撫でた。

シャルロッテは眠たそうな声を上げて返事をする。

バレ「秋風、私にお土産は?」

船長室から出てきたバレンティーナさんが声を掛けると秋風さんが懐から手のひら程の箱を取り出した。

秋風「タバコなら買ってきたけど?」

秋風さんは笑ってそう言うと一本放り投げた。

バレ「gut(グート)♪」

バレンティーナさんはそれを受け取ると近くにあったランタンで火をつける。

秋風さんもバレンティーナさんに近寄って同じ様に火をつけた。

ゆらゆらと紫色の煙が細く昇って濃藍の空に溶けていく。

バレ「秋風、料理は注文しておいてくれた?」

秋風「ん、しといたけどそろそろ来るんじゃない?あれでしょ、多分」

秋風さん船尾の方を眺めて指の変わりにタバコで指した方向から大型のガレー船が物凄い勢いで近づいてくる。

そして”逢瀬”とは反対側にぴたりと停まった。

少しすると丁度停まったガレー船の方から男性の声が聞こえてきた。

男性「背が高すぎて接舷できねぇ…。縄梯子下ろしてくれー!」

バレ「やれやれ…板渡した方が楽でしょうに…」

バレンティーナさんがタバコを咥えたままめんどくさそうに縄梯子を降ろすと一人の男性が料理を抱えて昇ってきた。

男性「はい!バレンティーナに秋風」

バレ「なまさんお久しぶりね」

なまさんと呼ばれた男性はにっかりと笑うと手にしていた料理をバレンティーナさんに手渡した。

バレ「これだけ?」

なま「まさかっ!俺だけじゃ持てんよ」

なまさんが言うが早いか続々と水夫さん達が縄梯子を昇ってくる。

あっという間に甲板は料理で埋め尽くされた。

秋風「…多すぎるじゃろ」

なま「そうかぁ?副官の歓待料理はいくらあっても足りんよ?何より今日は歓迎会だろ、余る位でも丁度良いって」

そう言ってなまさんは高らかに笑った。

なま「こっちの嬢ちゃんが今日の主役かい?」

ちらりと目が合う。

フラ「あ、フランシーヌです!よろしくおねがいします!」

なま「俺は…まぁ、なまって呼ばれてるからなまでいいや。嬢ちゃんもそう呼んでくれていいぜ」

なまさんは小柄な人で背はバレンティーナさんや秋風さんに比べて幾らか小さかった。

海焼けで肌は濃褐色に焼けていて…頭も…

小柄な体に不釣合いな大きな槍斧(ハルバートって言うのかな?)を背負っていた。

フラ「あっ!」

あたしが声を上げると同時になまさんが振り返る。

なま「どした?」

料理を運んだ水夫さん達が全員降りるとギシリギシリとオールを軋ませてなまさんの船は遠ざかって行ってしまう。

フラ「船行っちゃいましたけど…」

なま「あぁ、あいつらもたまには船長抜きでハメをはずしたいだろうと思って帰らせたよ」

バレ「はぁ?帰りはどうするのよ」

なま「送ってもらうよ。秋風に」

秋風「わっちかよ…」

なま「まぁ、よろしく頼むわぁ。それより始めようぜ、腹減ったよ」

なんとも飄々としてる人だなって言うのがあたしのなまさんの第一印象だった。

バレ「まぁいいわ…。始めましょうか。それじゃフランシーヌ」

不意に名前を呼ばれてあたしは思わず固まってしまった。

フラ「は、はいっ!」

あまりの緊張っぷりにバレンティーナさんがクスッと小さく微笑んだ。

バレ「ようこそ、シュトラーフェ商会へ!」

バレンティーナさんの声に”ブルーメンガルテン”と”逢瀬”の皆が拍手と歓声を上げる。

ゾクリと震える様な高揚感に包まれる気がした。

あたしは皆からの歓迎を受けている。

バレンティーナさんの船の皆、それだけじゃなく”逢瀬”の皆となまさん。

皆があたしの船出を祝ってくれていた。

バレ「さ、堅苦しい挨拶は無しにするわ!折角の料理だもの。冷めない内に、楽しんで頂戴!」

なま「いよっしゃーーーーーーーーーーっ!」

再び歓声が上がると皆はがやがやと談笑を交わしながら料理を手にしていた。


食事も一頻りした頃

辺りは酔い潰れてる水夫さんもちらほら見え始め、ほんの少し落ち着きを取り戻していた。

バレンティーナさんを始めとする船長達とニーナさんは秋風さんの配ったタバコで食後の一服の時間を楽しんでいた。

バレ「さて、フランシーヌ。一つだけ貴方に言っておかなければいけないことがあるわ」

フラ「ふえ?なんですか?」

バレ「秋風、用意は出来てる?」

秋風「ん、出来てるよ」

そう言って秋風さんは手のひらより少し大きい位の漆黒に塗られた木箱を取り出した。

バレ「貴方は嫌がるかも知れないけど貰ってもらうわ」

バレンティーナさんはそれ押し出す様にあたしの前に滑らせた。

ごくりと喉が鳴る。

あたしはそっとその箱を開いた。

その中に入っていたのはベルベットをクッション代わりに宝石の様に扱われた短銃だった。

フラ「こ、これは…」

それはあたしの為に作られたかの様にピッタリとあたしの手のひらに納まる。

バレ「これから、旅を共にする以上自分の身は自分で守って欲しいの」

フラ「…」

ずしりと手のひらの拳銃の重みを感じながらあたしはバレンティーナさんの話を聞いていた。

バレ「貴方は非戦闘員よ。私や秋風、それにニーナやなまさんの様に戦う事が出来ないのは知っているわ」

バレンティーナさんの言葉をあたしだけじゃなく周りの皆も黙って聞いていた。

バレ「でもそれは私達だけよ。敵にはそんな事はどうでも良い事なのよ。解るわね?」

フラ「うん…」

バレ「それに私達はいつも普通に交易出来るとは限らない、時には危険な目に遭う事を承知で商売をする事もあるわ」

フラ「そ、それって…」

バレ「貴方の考えている様な交易所での取引だけじゃないと言う事よ」

その言葉が手のひらの短銃よりも重くあたしに圧し掛かる。

すこしショックだった。

バレンティーナさんや他の皆は今までそんな素振りは一度も見せなかったから

あたしは疑いもしていなかった。

思い起こしてみればあたしが副官に選ばれた日もバレンティーナさん達は誰かに追われている様子だった。

それを忘れてあたしは表の世界だけを見てきたんだ。

正確には、皆がその裏を見せない様にしてくれていただけなのかも知れない。

バレ「黙ってて、ごめんなさい。でも遅かれ早かれ解ってしまう事だから心構えだけして欲しかったの」

フラ「う、うん…」

バレ「海の上の世界と言うのはこう言う物なのよ。いつ寝首を掻かれてもおかしくない…こんな風にねっ!」

バーンッッ!

静かな海の上に銃声が鳴り響いた。

次いでドボーンと何か重たい物が海に落ちる音がする。

思わず閉じてしまった目を開けるとあたし以外の四人

バレンティーナさん、秋風さん、なまさん、ニーナさんの短銃から煙が揺らめいていた。

銃口の煙を小さく吹いて、バレンティーナさんは呆れた様に言った。

バレ「なまさん縄梯子片付けてなかったわね…」

なま「忘れてたわぁ、わり」

バレ「人が真面目に話しをしてたのに…」

小さく溜息を吐いてバレンティーナさんは話しを戻した。

バレ「とにかくそう言う事も踏まえてフランシーヌには今一度決めて欲しいの」

フラ「と言うと…?」

バレ「私達と一緒に来るか、それとも船を降りるか…」

フラ「そ、そんなっ!?」

船を降りる

そんな選択肢が用意されていたなんてあたしは知る由も無かった。

それに…

バレ「勿論、私達は貴方に居て欲しいと思ってる。でも貴方の人生だもの、生き方の強要は出来ないわ」

フラ「そ、そんな…そんな事言われて…」

いつの間にやら溢れていた涙をグイッと拭ってあたしはバレンティーナさんを見上げた。

フラ「今更そんな事言われたって、船降りれる訳…ないよっ!」

声を荒げたあたしを皆が驚いた顔で見つめていた。

フラ「あたしは嬉しかった…バレンティーナさんに選んでもらえて、決心が着くまで待っててもらえて嬉しかった…」

ギュッと握る手に力が入る。

フラ「バレンティーナさんみたいに縫製や織物の知識が豊富な人に着いていけて…」

あたしは何で声を上げているのだろう?

バレンティーナさんの言葉が悔しかったから?

それとも嬉しかったから?

自分が涙を零す理由も解らなかった。

フラ「あたしは…あたしは…バレンティーナさんに選ばれた時から、あたしはバレンティーナさんの副官だもん!」

バレ「フランシーヌ…」

フラ「お役に立てないかもしれないけど…あたしは、船長の片腕…だもん…」

自嘲めいた笑みを浮かべてバレンティーナさんがポツリと呟く。

バレ「愚問だったみたいね…ごめんなさい」

バレンティーナさんは立ち上がりしゃくり上げてるあたしの手を包み込む様に握った。

バレ「貴方の決心、確かに受け止めた。改めて、歓迎するわ」

フラ「うん…あり、がと…ご、ざいます!」

バレ「この銃、貴方の為にシュトラーフェ商会から送るものよ。秋風、何処に彫ってあるの?」

秋風「銃身の外側に彫ってあるよ」

バレンティーナさんはあたしの手から短銃を取ると言われた部分を確認する。

バレ「いい、フランシーヌ。貴方はこれから私達と共に罪を背負う事になる。その形は様々、一つとは限らない」

そして銃身に彫ってある文字をあたしに見せた。

strafe Francine

バレ「いつか何らかの形で罰を受けると言う事を忘れない様にね。忘れそうになったらこの銃を見て思い出しなさい」

そう言って取り出したバレンティーナさんの銃にも同じ様に文字が刻まれていた。

バレ「strafe ドイツ語で罰と言う意味よ。これは私達の商会員としての証。それと同時に貴方の身を守る物だと言うのも忘れちゃダメよ」

バレンティーナさんがあたしに再び銃を手渡す。

何故だかさっきよりも重たい気がした。

フラ「はい」

バレ「非戦闘員である貴方を私達は可能な限り守る、貴方は自分を守る時だけその銃を使いなさい。貴方の人生を守る為に、いいわね?」

フラ「はい!」

バレ「クスッ、良い返事ね。貴方を副官にして本当に良かった。さ、歓迎会の続きをしましょうか。まだ残ってるわよ」

フラ「食べきれるかなぁ…」

なま「食え食え、喰って大きくなれ!」

あたしはその後、皆の証を見せて貰った。

秋風さんは刀、なまさんはハルバート、ニーナさんは二つ穴の短銃。

それぞれに名前と一緒に strafe の文字が刻まれていた。

あたしはこの時、気付いた。

この人達が何故こんなにも仲が良いのか

信頼しあっているのか

それはきっと

目に見えない固い固い絆で

結ばれているんだと

罪と罰と言う

二つの絆で…

 SS寄り